生と死
もっと生きていたかった。
ゲームをしたりネットで色々見たり、映画やアニメだって見たかった。
本ももっと読みたかった。
目が光を捕らえなくなった。その後言葉を発することができなくなって、耳が聞こえなくなり、音もわからなくなった。
死が近づいていると思っても、悲しんでも、感覚は枯れ果て、ただ思いだけが闇の中で動いていた。
眠っても闇、起きても闇。
さみしいにげたいつらいかなしいそばにだれかねえきておねがい。
夢は現実のデバッグなのだろうと若い頃から思ってた。だから行ったことも見たことも無い場所で、知らない人と、現実にはありえないガジェットに包まれていても違和感がないのだろうと。
たまに「いま自分は夢を見ている」と感じることがある。並んでいる料理を口に運んだりモノを壊したりしたこともあった。モノは壊れたり倒れたりしたけれど何故か料理の味はしなかった。
「これは夢だろう」
死につつあるのだろうけど、逃れたい気持ちから夢を見たのかな。
ギュスターヴ・ドレの挿絵入り「神曲」の抄訳版が好きだった。今はその影響にあるのか。
詩聖ウェルギリウスさんは?
地獄の外に出たダンテは魚座を曙の空に見る。でも自分は星座が苦手だから魚座を見たことが無い。星々が見えるけれど魚座か分からない。
ともあれ煉獄か。でもヴェルギリウスさんは居ない。
<こ……ぞ>
人なのか何なのかわからないけれど何かが近寄ってきた。最後に認識した現実の自分は病院のベッドで感覚を枯れさせつつ寝ているからそれをはっきり認識できないのは仕方ないのだろう。
<こちらへ>
あ、聞こえた。誰?
<未練>
そう。もっと遊びたかった。
<転生の願いと転生の否定の並列>
同意。自分の宗教観の中に転生はある。が、レテ河の水を飲んで自己を喪失するのは嫌。自分を失いたくない。自分がずっと自分でいたい。
<生命の樹の存在と意義>
ああ、やはりそれはあったのか。
<歴史が好き>
勿論。
<過去への干渉>
それを想像したり小説を楽しんだけれど過去は変えられない。
<枝そして根>
生命の樹の?
<双方は伸びる>
星が集まってサイコロになった。流れ落ちて。砂時計の中に入った。太陽系儀のような幾つもの輪と軸の中くるくる回る砂時計。TRPGの多面サイコロが沢山。
<ランダムの中のランダムの中のランダム>
ああぁ。デューンの言い回し。好き。罠の中の罠の中の罠。
その太陽系儀的砂時計を抱えた自分。輪に触れる。ハープの糸に触れたような。
「生命の数だけ宇宙があります。次の宇宙が生まれます」
「自分は死ぬのでしょう。宇宙は終わったという事ですか」
突然自分の五感が外部との接点を復活し認知出来るデータが増えた。
マトリクスで見たのと同じ白い空間。目の前に居るのは白衣観音さま? でも瓔珞がないし胴体はすっぽり衣で包まれてる。ああ、きっと自分の概念から近似してるデータに寄せているのだろう。
「生命の樹は枝も根も生長します。けれど個の宇宙は生命の死とともに消滅します」
見下ろした太陽系儀的砂時計の動きが緩やかになってきた気がする。
「生命の樹さえ人の数だけあるのですか?」
「生命の樹と宇宙は関係があるのでしょうか?」
確かに。
「じゃあ宇宙の数千億年という歴史がありますという知識も、自分の死と共に消えるのですね。未来への旅人と自分が呼んでいた子供達も自分の認識宇宙の消滅と共に消えるのですね」
「宇宙が死にます」
自分のものではない手が太陽系儀に触れた。自由に回転していた砂時計は左へ右へ左へ右へ手前へ後ろへ手前へ後ろへ。ジャグラーが操るリングのようにフリーに動いていた輪も二方向にしか動かなくなり、すべての輪が軸が水平にピタリと。
砂時計は止まった。サイコロ達は整列した。
「選定の完了。過去へ。根が成長する時」
太陽系儀ははたき落とされ、星が散った。
階段を上っている。
登って登っても階段。早く終わって。
次の認識。二重螺旋階段だった。
じゃあ。
横を見ると自分だけが知っているヒトがいた。
黒髪の中性的な。
「真実とは人の数だけある」
おかあさんが赤ちゃんを抱いている。友達の家に押しかけるようにおじゃまして、お祝いしたんだっけ。あの時のおかあさんの笑顔が忘れられない。
あれは誰? 赤ちゃんを抱いている人が居る。
黄土色の服を着て。
ボンネットを被った中年女性が身をぬぐってあげたばかりの赤ちゃんを母親の顔の側へ近づけた。
「奥様、元気なお嬢さんですよ。しっかりした身体だこと。丈夫に育つわ」
ああ、ありきたりなセリフ。なんてありきたりな。しっかりした身体って自分と同じだ。自分もそう言われて大きくなった。
赤ちゃんが自分に向かって手を伸ばしてる。そっと人差し指だけさしだすと、赤ちゃんが自分の指をぎゅっと握った。
夢か。
これは夢か。
動きたい。お腹がすいてる気がする。何か食べたい。水分取らなきゃ。トイレも行かなきゃ。
でもさっき死ぬとか消滅とか話をしてたような。
ああ、赤ちゃんがいる。
生まれたての赤ちゃんって手を伸ばせたっけ。
だから夢。
でもどうして自分が死ぬって思ってるのに自分の考えがこうやって続いてるの?
赤ちゃんが泣いてる。
「「お腹がすいた!」」
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思いつくままを垂れ流す感じですが、ふっと浮かんだのでメモ的に書き出してアップしてみました。いつもこんな感じでぐちゃぐちゃに考えが湧いては消えて沸いては消えていくんです。誤字脱字あると思いますが面倒なのでこのままで。